「個性のない個性」を生かすモデリスト

 

 

この本は、クリエイティブな仕事を現場で支え続ける裏方の職能について──「モデリスト」「モデル」「マーチャンダイザー」

「編集者」「テキスタイル企画」に携わる5人が、これからの日本発信のファッションの在り方を考えるため、その戦略や方法論を語ったものです。(Amazon書籍紹介より)

 

タイトルは、モデリストの新井千栄子さんの言葉です。本書で、新井さんは、あえてモデリストという言葉を使っています。日本では、パタンナーというのが一般的ですが、ご自身の渡仏経験から、パリではパタンナーというと、受け身で仕事をしているイメージがあるので、積極性を持つ存在として、モデリストと名乗っているとのこと。

 

モデリストとして、経験豊富な彼女は、本書ではその役割について、独特な表現を用いて語っています。例えば、「ファッションにおけるミケランジェロ」これは、この世にかたちを生み出すという意味で、モデリストは彫刻家、平面を立体化する職人的芸術家だと彼女は言っています。

 

日本でそのようなモチベーションで仕事をしているパタンナーがどれくらいいるでしょうか。なぜか俗っぽくなりがちな日本のアパレルにおいては、そんなふうに言われることは、私自身小っ恥ずかしい限りです。

 

「マルチリンガルな翻訳者」これは、4つの方向に情報を伝えるという意味で、デザイナー、MD(マーチャンダイザー)、生産管理、縫製工場、4者に対しての翻訳者ということです。これは、よくわかります。確かにそうです。

 

一般の人には、モデリスト(=パタンナー)の存在すら知らない人がほとんどです。認知度の低い職種ですが、ファッションデザインという創造的な仕事は、デザイナーがすべて行っているわけではありません。クリエーションにおいては、デザイナーとモデリスト(=パタンナー)双方の役割は重要かつ不可欠で、両者ともWin-Winの関係なのです。

 

以下は、本書で気づかされたことです。

 

・モデリスト(=パタンナー)は、自身の好みや趣向をもとに仕事をするのではない。

・自分の価値基準が絶対と思ってはいけない。

・人の数だけ価値基準があることを念頭に置いて、常に心を開放しておく必要がある。

・デザインの数だけ技術が必要。

・モデリスト(=パタンナー)は、ホスピタリティの精神を持ち、相手の要望に完璧に応えることが仕事である。

 

 同業者として、心から敬服致します。(。-_-。)